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MEDICAL INFO

注意欠如・多動症(ADHD)について

ADHD

注意欠如・多動症(ADHD)とは

注意欠如・多動症(attention deficit hyperactivity disorder : ADHD)とは、神経発達症のひとつです。
集中が続きにくい、忘れ物が多い、じっと座っていられない、思ったことをすぐ口にしてしまうなど、生活の中で困りごとが出やすい特性があります。
ADHDは、特性が子供の頃から見られるのが特徴ですが、子供だけに見られるわけではなく、大人になってからも症状が続く人がいます。 

ADHDの基本的な特徴
  • 不注意の特性
    細かいことに気づきにくく、忘れ物が多かったり、やるべきことを途中で投げ出してしまったりすることがあります。
  • 多動・衝動性の特性
    じっとしているのが苦手で体を動かしてしまう、考える前に行動してしまう、順番を待つのが難しいなどの特徴があります。 
子供と大人での違い
  • 子供のADHD
    学校では「授業中にウロウロする」「文具をよくなくす」「友達とのトラブルが多い」といった困難が出やすくなります。
  • 大人のADHD
    「仕事の段取りが苦手」「会議に集中できない」「感情的になりやすい」など、社会生活に影響が出ることがあります。子供の時よりは、多動は目立たなくなり、不注意が残る傾向があります。 

ADHDの症状と特性

主な症状

ADHDの症状には大きく分けて3つのタイプがあります。

  1. 不注意が目立つタイプ
    忘れ物が多い、話を最後まで聞けない、物事を整理するのが苦手など。
  2. 多動・衝動が目立つタイプ
    じっとしていられない、しゃべりすぎる、順番を待てないなど。
  3. 両方の症状がある混合型
    多くの人はこの混合型にあてはまるといわれています。
日常生活で見られる困難
  • 学校や職場での困難
    宿題やレポートを期限までに仕上げられない、授業や会議で集中が続かない、予定の管理ができない、人間関係のトラブルが増えるなどがあります。
  • 家庭や家族関係での影響
    片づけができず部屋が散らかる、約束を忘れる、感情的になってしまい家族とぶつかるといった場面もあります。 

ADHDの原因と診断

ADHDの原因に関する考え方

ADHDは「親の育て方のせい」ではありません。脳の働きや神経の伝わり方の違いが関係していると考えられています。
また、家庭や学校などの環境も、症状の現れ方に影響することがあります。 

診断の流れ

ADHDかどうかは、医師が問診や観察を通して総合的に判断します。

  • 医師による問診
    ご本人に困りごとや状況を詳しく聞き取ります。この際、ご本人からの情報だけでなく、家族や学校の先生、職場の同僚からの情報があると診断の助けとなります。また、子供の頃から特性があったことを確認するため、通知表やノートなどもあれば大事な資料となります。
  • 評価スケールや心理検査
    医師や心理士が、評価スケールや心理検査をもちいて、判断の材料にします。家族への質問票、行動の観察なども診断の参考になります。
  • 脳波検査や脳画像検査など
    てんかんや他の脳の疾患がないか、必要に応じて脳波検査や画像検査をすることがあります。また、眠気での集中力低下をきたす「睡眠時無呼吸症候群」や足がムズムズして落ち着かない「ムズムズ脚症候群」なども判別が必要になることがあります。 

ADHDの治療と支援

治療の基本
  • 環境調整や行動療法
    まず、ADHDについてよく知ることから始め、次に環境を工夫することが大切です。周りに気が散る物をおかないようにする、やることを短時間や小さなステップに分ける、やることリストを書く、生活リズムを整えるなどの工夫が有効です。
  • 薬物療法
    環境調整や行動療法などを行っても、生活に困り場合や二次的なこころの症状がある場合は、必要に応じて薬が処方されることがあります。 
家族や周囲のできる工夫
  • 家庭での工夫
    カレンダーやチェックリストを活用し、忘れ物や予定の管理を助けることが大切です。本人に伝えたいことは、簡潔にわかりやすく書き出すなどの工夫もあります。
  • 学校や職場での支援
    合理的配慮(座席の位置、作業の区切り方など)によって、力を発揮しやすくなります。 
本人の工夫とセルフケア
  • 集中を助ける工夫
    タイマーを使って時間を区切る、静かな環境を選ぶなど。
  • 苦手を補う工夫
    スマホのアプリや付箋を活用して「忘れやすさ」をカバーする。 
社会の理解と支援
  • 偏見をなくすために
    ADHDは「努力不足」ではなく、脳の特性に由来するものです。社会全体の理解が欠かせません。
  • 特性の強みを活かす視点
    ADHDの方には、アイデアが豊か、エネルギーがあるといった強みもあります。支援を受けながら、その特性を活かすことが大切です。 

まとめ

ADHDは集中が続かない、多動や衝動性があるといった特徴をもつ神経発達症です。子供にも大人にも見られ、学校や家庭、職場で困りごとが生じやすいですが、適切な診断と支援によって改善が期待できます。
「自分や家族がADHDかもしれない」と思ったら、一人で悩まず専門の医療機関に相談してください。当院では、多職種が関わり、各機関と連携しながら支援を行っています。困ったときには、どうぞ安心してご相談ください。 

参考資料

  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「注意欠如・多動症(ADHD)」
  • 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター「ADHD(注意欠如・多動症)」
  • 日本精神神経学会「精神疾患の診断・治療について」
  • American Psychiatric Association, DSM-5 (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition) 

文責 院長 和佐野研二郎