診療内容

MEDICAL INFO

自閉スペクトラム症について

ASD

自閉スペクトラム症(ASD)とは

自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)は、神経発達症のひとつです。「神経発達症」とは、生まれつきの脳の働き方の特徴が原因で、学び方や感じ方、人との関わり方に特性がある状態を指します。
以前は「自閉症」や「アスペルガー症候群」と呼ばれていましたが、現在ではまとめて「自閉スペクトラム症」と呼ばれるようになりました。
「スペクトラム」という言葉には、「連続体」という意味があります。つまり、軽い困りごとから生活に大きな支障がある場合まで、さまざまな状態が連なっているという考え方です。ASDの人の中には、強い困りごとを抱える人もいれば、得意分野で大きな力を発揮する人もいます。特性は一人ひとり違い、それぞれの個性があります。 

ASDの基本的な特徴
  • 神経発達症のひとつ
    ASDは、脳の働き方に関係しており、本人や家族の育て方が原因で起こるものではありません。
  • ADHDなど他の神経発達症との違い
    注意欠如・多動症(ADHD)や学習障害(LD)などと一緒に見られることもありますが、それぞれに違った特性があり、対応の仕方も様々です。 

自閉スペクトラム症の症状と特性

ASDの人には、大きく分けて「コミュニケーションの特性」「行動や興味、こだわりの特性」「感覚の特性」があります。ただし、これらの現れ方は人によって異なります。

コミュニケーションの特性
  • 会話や表情のやりとりが苦手
    相手の表情や声のトーンから気持ちを読み取るのが難しかったり、自分の気持ちを言葉で伝えるのが苦手だったりします。
  • 相手の気持ちを理解しにくい
    「空気を読む」といった暗黙のルールが分かりにくく、人間関係の中で誤解を招いてしまうことがあります。 
行動や興味、こだわりの特性
  • 感覚が過敏、もしくは鈍感
    視覚や聴覚が過敏で、光をまぶしく感じたり、音をうるさく感じたりしやすいことがあります。触覚が過敏で、ささくれが気になったり、服の素材やタグが気になったりすることがあります。味覚が敏感ですごく偏った食事になることもあります。逆に感覚が鈍感なこともあります。 

ASDの方の多くは、言葉での説明より、文字や絵での説明の方が伝わりやすい傾向があります。

自閉スペクトラム症の原因と診断

原因について

ASDの原因はまだ不明なことが多いですが、研究では「脳の働きの特徴」や「遺伝的な要因」が関係していることが分かっています。重要なのは、育て方や親の関わり方が原因ではないということです。この点は多くの人が誤解しやすい部分ですが、誤解をなくすことが大切です。ただ、周囲の対応によって、二次的にこころの不調をきたすことがあることも知っておく必要があります。

診断の流れ
  • 医師の診察
    医師が生活の様子やこれまでの成長の過程を聞き取り、行動を観察します。
  • 心理検査や評価尺度
    心理士による検査で、得意なところや苦手なところを客観的に確認します。 
早期発見の大切さ
  • 子どもの場合
    小さいうちに特性を理解し、適切なサポートを受けると、学びや社会性の発達を助けることができます。  ※当院では中学生以下の診療は行っておらず、小児科に依頼しております。
  • 大人の場合
    自分の特性を知ることで、仕事や人間関係の工夫ができ、生きやすさにつながることがあります。 

自閉スペクトラム症への支援と治療

ASDそのものを完全に「治す」薬や方法はありませんが、困りごとを和らげ、生活をしやすくするための支援はたくさんあります。

心理的支援
  • 行動療法やソーシャルスキルトレーニング(SST)
    人との関わり方を練習したり、生活の工夫を学んだりします。
  • 家族へのサポート
    ご家族が安心して本人を支えられるよう、相談にのり、よりよい関わり方を一緒に考えます。 
環境の工夫での支援

自宅や学校、職場での環境を過ごしやすい様に工夫することで支援します。

  • 学校での支援
    療育や特別支援教育、学習方法の工夫などによって、力を発揮できるようにサポートします。
  • 就労支援
    職場の環境を整えたり、本人の特性に合った仕事を選んだりすることで、働きやすさが向上します。 
薬物療法

環境の工夫や心理的支援を行っても、不眠や不安が強い場合は、必要に応じて薬が使われることもあります。

自閉スペクトラム症と日常生活

困りごととその工夫
  • コミュニケーションの工夫
    会話だけでなく、絵や図、スケジュール表を使って見える形にすると分かりやすくなります。
  • 感覚過敏への対応
    音が苦手な人は耳栓を使い、光に敏感な人はサングラスを利用するなど、自分に合った工夫が役立ちます。 
家族や周囲の理解
  • サポートの力
    家族や友人、学校、職場で周囲の人が、本人の特性を理解することで、本人の安心につながり、本人の力を発揮しやすくなります。 
強みを活かす視点
  • 得意なことを伸ばす
    記憶力が良い、細かい作業が得意、集中力があるなど、ASDならではの強みを活かせる場面は多くあります。 
  • 社会参加の大切さ
    それぞれの特性に合った環境があれば、ASDの人も社会の中で大切な役割を担うことができます。 

まとめ

自閉スペクトラム症(ASD)は、コミュニケーションや行動・興味に特性があり、過ごしづらいこともある一方で、強みや素晴らしい個性をもっています。
診断や支援を受けることで、自分の特性を理解し、生活の中で工夫を見つけやすくなります。また、家族や社会の理解があれば、その人らしい力を活かして過ごすことができます。
当院では、ASDを持つ方やご家族が安心して暮らせるよう、各機関とも連携し、多職種でサポートする体制をとっております。困ったときは一人で抱え込まず、気軽に御相談ください。 

参考資料

  • 国立精神・神経医療研究センター|発達障害情報・支援センター(発達障害情報ポータルサイト)
  • 独立行政法人 国立成育医療研究センター|子どもの発達と発達障害
  • 日本精神神経学会|精神疾患に関する情報(自閉スペクトラム症)
  • 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)|サイエンスウィンドウ:発達障害を理解する 

文責 院長 和佐野研二郎