診療内容

MEDICAL INFO

双極性障害について

BIPOLAR DISORDER

双極性障害とは

双極性障害は、以前は「躁うつ病(そううつびょう)」と呼ばれた病で、生涯で約100人に1人が発症する可能性があります。この病の大きな特徴は、気分が大きく高ぶる「躁状態」と、反対に気分がとても沈んでしまう「うつ状態」をくり返すものの、寛解期には症状がないことです。 
人は誰でも楽しいときや悲しいときがありますが、双極性障害では気分の波がとても大きく、生活や学校・仕事に支障をきたすことがあります。

躁状態とうつ状態の特徴

躁状態のときには、大きな気持ちになり浪費したり、疲れを感じにくくなったり夜眠らなくても平気だったりして、疲れに気がつけなくなることがあります。また、次々とアイデアが浮かんできて、注意散漫になったりします。周りから見ると「いつもより活動的すぎる」「ちょっと落ち着きがない」と感じられることがあります。疲れてしまい、躁状態の後、うつ状態になりやすことも問題となります。 
一方で、うつ状態になると気分が沈み、何をしても楽しいと感じられず、体も重く感じることがあります。「やる気が出ない」「学校や仕事に行けない」といった状態になることもあります。

■躁状態の主な症状

  • エネルギーが高まり動きすぎて、疲れに気がつかない
  • 睡眠が少なくても元気で、疲れに気がつかない
  • 次々に考えが浮かび、話が止まらない・まとまらない
  • お金を使いすぎる、無理な計画を立てる
  •  後で後悔するようなことをしてしまう 

■うつ状態の主な症状

  • 強い落ち込みが続く
  • 興味や楽しみがなくなる
  • 疲れやすく集中できない
  • 自分を責めてしまう 
うつ病との違い

うつ病は気分の落ち込みが中心ですが、双極性障害は「躁」と「うつ」の両方を経験することが大きな違いです。この違いは治療方法にも影響するため、とても大切です。また、最初はうつだけ出現する場合もあり、診断がつくのに時間を要することもあります。

双極性障害の原因と背景

双極性障害の原因は一つではありません。脳のはたらき、遺伝的な影響、生活習慣やストレスなどが重なって発症すると考えられています。

脳や神経の働きとの関係

脳の中には気分や行動を調整する「神経伝達物質(しんけいでんたつぶっしつ)」があります。セロトニンやドーパミンといった物質のバランスが乱れることで、気分の波が強く出るといわれています。

遺伝的要因と環境要因

ご家族に双極性障害の方がいると、病気になる可能性が少し高くなることが知られています。ただし、遺伝だけで決まるわけではなく、ストレスや生活環境の影響も大きく関係しています。

睡眠や生活リズムの影響

夜更かしや不規則な生活は、症状の悪化や再発のきっかけになることがあります。十分な睡眠と安定した生活リズムを保つことは、とても大切です。

双極性障害の症状と診断

躁状態でよくみられる状態
  •  いつもより多く話し、早口になる
  • 自信が強すぎて危険な行動をとる
  • 買い物や投資などで浪費してしまう
  • あまり眠らなくても疲れを感じなくなる 
うつ状態でよくみられる状態
  • 気分が沈み、楽しいことがなくなる
  • 疲れて体が重く、やる気が出ない
  • 食欲や睡眠に変化が出る
  • 学校や仕事に行けなくなる 
診断の流れ(問診・検査など)

医師が詳しく症状を聞き取り、生活の様子や経過を確認します。躁とうつの両方を経験しているかどうかが診断の重要なポイントです。

  • 医師による診断の基準

DSM-5などの国際的な診断基準を用いて判断されます。

  • 他の病気との区別

ほかのこころの病気や体の病気、また、お薬の影響でも同じような症状が出ることがあるため、問診や血液検査、脳波検査などをもちいて、丁寧に見分けることが必要です。

双極性障害の治療法

薬物療法

治療の基本は薬を使う方法です。気分の波を安定させる「気分安定薬(リチウムなど)」が中心となります。

  • 気分安定薬や抗精神病薬

再発を防ぐ効果があり、長期的に使われることが多い薬です。

  • 抗うつ薬の併用

症状に応じて使われることもありますが、躁状態が悪化しないよう注意が必要です。

心理教育

自分の病気を理解し、対処の方法を学ぶことが再発防止につながります。家族も一緒に学ぶことでサポートがしやすくなります。

対人関係社会リズム療法

生活のリズムを保つことが大切です。また、そう状態のサインが見られた時は、人との接触の程度をコントロールすることも大事です。

認知行動療法

うつ症状に効き目があり、異常な気分の波を予防する効果も期待できる。

修正型電気けいれん療法(m-ECT)

薬が効きにくい重いうつ状態に対して行われることがあります。 ※当院では行っておらず、必要な時には連携している他の医療機関を紹介します。

双極性障害と日常生活

再発を防ぐための工夫
  • 睡眠・食事・運動を整える
  • 医師の指示にそって薬での治療を続ける
  • 定期的に受診して相談する 
職場や学校でのサポート

症状に合わせて勤務や登校を調整できるように、周囲の理解を得ることが大切です。

家族や周囲の理解と支援

家族が病気を理解し、早めに変化に気づけると、再発を防ぎやすくなります。安心できる環境が回復を支えます。

双極性障害と社会的な問題

偏見や誤解への向き合い方

「気分の浮き沈みが激しいだけ」と誤解されることもありますが、双極性障害は医学的に説明できる病です。正しい理解を得ることが重要です。

社会復帰と支援制度

自立支援医療や障害者手帳、就労支援など、社会復帰を助ける制度があります。困ったときは医療機関や専門家に相談することが安心につながります。

まとめ

双極性障害は、気分の高ぶりと落ち込みがくり返しあらわれる病気です。生活や学校、仕事に大きな影響を与えることもありますが、適切な治療と生活習慣の工夫で、安定した生活を送ることは十分可能です
薬物療法と精神療法を組み合わせ、規則正しい生活を心がけること、そして家族や周囲の理解・サポートを得ることが大切です。偏見や誤解に負けず、一人で悩まずに相談することが回復への第一歩となります。
当院では、医師・看護師・心理士・作業療法士・精神保健福祉士など、さまざまな専門職が協力して治療にあたり、外来診療から入院治療、デイケア、訪問看護まで、幅広いサポートを行っています。
当院では、患者さんとご家族に寄り添いながら、一人ひとりに合った治療や支援を一緒に考えてまいります。また、患者さんご本人だけでなく、ご家族からの相談にも対応しています。どうぞ安心してご相談ください。 

参考資料

  • 厚生労働省 みんなのメンタルヘルス総合サイト「双極性障害(躁うつ病)」
  • MSDマニュアル家庭版「双極性障害」
  • 日本うつ病学会「双極性障害について」 

文責 院長 和佐野研二郎