診療内容

MEDICAL INFO

解離症について

DISSOCIATIVE DISORDER

解離症とは

みなさんは、「気づいたら時間があっという間に過ぎていた」「授業中にぼんやりしていて内容を覚えていない」といった経験をしたことはありませんか。これらは、誰にでも起こりうる「解離(かいり)」と呼ばれる心の反応の一つです。
しかし、この解離の反応がとても強く、日常生活や人間関係に大きな影響を与える状態を「解離症」と呼びます。解離症は、心が強いストレスやつらい出来事から自分を守ろうとして起こることが多いと考えられています。 

解離の基本的な意味

「解離」とは、本来つながっているはずの自分という感覚(アイデンティティ)・記憶・感情・思考・感覚が一時的に分かれてしまうことです。
たとえば、 

  • 大切な出来事の記憶が抜け落ちる
  • 自分が自分でないように感じる
  • 周りの世界が現実ではないように思える 

といった体験があげられます。これらは誰にでも一時的に起こりうるものですが、解離性症ではその程度が強く、日常生活に支障をきたしてしまいます。

解離症の種類

解離症には、症状の出方によって、いくつかのタイプがあります。それぞれに特徴がありますので、代表的なものを紹介します。実際には、これらが混ざり合って生じることがあります。

解離性同一性障害(DID)

かつて「多重人格」と呼ばれた状態で、異なる人格が入れ替わるように現れることがあります。それぞれの人格には名前や性格があり、本人の中で交代して行動を取るため、周囲からは混乱して見えることもあります。

解離性健忘

強いショックやトラウマがきっかけとなり、特定の出来事や期間の記憶が抜け落ちることがあります。「昨日のことを思い出せない」「大事な出来事だけが記憶から抜けている」といった症状が代表的です。

解離性遁走(とんそう)

ある日突然、自分の家や学校、仕事を離れて遠くに行ってしまい、その間の記憶がないまま戻ってくることがあります。本人には移動していた記憶が抜け落ちているため、戸惑いや不安が大きくなります。

離人感・現実感消失症

「自分の体を外から見ているように感じる」「世界が映画のようで現実感がない」といった感覚です。周囲には伝わりにくいため、「理解してもらえない」と孤独感を抱く方もいます。

解離症の原因と背景

トラウマや強いストレスの影響

解離症の背景には、過去のつらい体験があることが多いとされています。たとえば、子どもの頃の虐待、いじめ、災害、事故などがきっかけになることがあります。心が耐えきれない状況に直面すると、「その記憶や感情を切り離す」という方法で自分を守ろうとするのです。

PTSDや他の精神疾患との関連

心的外傷後ストレス障害(PTSD)や転換性障害など、他の疾患と関連してみられることもあります。似た症状が重なって見えるため、慎重な診断が必要になります。

解離症の主な症状

解離症の症状は人によって異なりますが、代表的なものを挙げます。これらが、同時に複数出現することがあります。

  • 記憶の抜け落ち
    強いストレスやトラウマに関する出来事の記憶が失われることがあります。
  • 人格の変化
    複数の人格が現れ、交代しながら行動することがあります。
  • 離人感や現実感の消失
    「自分が自分でない」「世界が遠い」といった感覚に悩まされることがあります。
  • 遁走などの急な行動変化
    気づいたら別の場所に移動していたり、普段の自分とは違う行動をしていたりすることもあります。 

診断と検査の流れ

解離症は、神経の病気や体の病気と同じような症状を伴うことがあるため、最初に内科を受診され、さまざまな診察・検査で内科的な異常がないため、この病が疑われて精神科や心療内科に相談となるケースも多くあります。

精神科での問診と心理検査

体の病気と似たような症状を認めるため、内科受診をされたかどうかに関わらず、体の病気を丁寧に見分けることが大切です。そのうえで、精神科での診断の際には、ご本人の体験を丁寧に聞き取ります。また、心理検査を行って心の状態を把握することもあります。周囲の家族や友人からの情報も診断の参考になります。

治療とサポート方法

精神療法(心理療法)

治療の中心となるのは心理療法です。安心できる環境で、少しずつトラウマに向き合ったり、感情や記憶を整理していったりします。認知行動療法や支持的なカウンセリングなどが用いられる場合もあります。

薬物療法

薬そのものが「解離」を直接治すわけではありませんが、不安や不眠、気分の落ち込みが強い場合に薬が使われることがあります。生活の安定をサポートするための一助と考えられます。

家族や周囲の支援

解離性障害のある方にとって、家族や友人、学校や職場の理解はとても大切です。「怠けているわけではない」と理解して寄り添うことが、安心感につながります。

日常生活での工夫と支援

  • ストレス対処とセルフケア
    睡眠や食事のリズムを整え、リラックスできる趣味や運動を取り入れることが役立ちます。
  • 学校や職場での理解
    周囲の人が症状を正しく理解し、配慮してくれることで生活しやすくなります。
  • 地域資源の活用
    精神科デイケアや支援機関を利用することで、安心できる居場所を持つことができます。 

まとめ

解離症は、心が強いストレスやトラウマから自分を守ろうとしたときに起こる反応の一つです。記憶が抜け落ちたり、自分が自分でないように感じたりと、さまざまな症状が生じます。
大切なのは、「なぜこうした体験をしてしまうのか」と一人で悩み続けるのではなく、安心して相談できる場所を見つけることです。
そして、患者さんだけでなく、家族や友人など周囲の人が理解を深めることも重要です。支え合う環境があれば、少しずつ回復の道を歩むことができます。
解離症状は、心が苦しい状況に置かれたときの「生き抜くための力」でもあります。その仕組みを理解し、支え合うことが、回復への大切な一歩となります。
症状に心当たりのあるときは、お気軽にご相談ください。

参考資料

  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「解離性障害」
  • 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所
    「心の病気を知る:解離性障害」
  • MSDマニュアル家庭版「解離性障害」
  • American Psychiatric Association (APA). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition (DSM-5).

文責 院長 和佐野研二郎