MEDICAL INFO
DISSOCIATIVE DISORDER
みなさんは、「気づいたら時間があっという間に過ぎていた」「授業中にぼんやりしていて内容を覚えていない」といった経験をしたことはありませんか。これらは、誰にでも起こりうる「解離(かいり)」と呼ばれる心の反応の一つです。
しかし、この解離の反応がとても強く、日常生活や人間関係に大きな影響を与える状態を「解離症」と呼びます。解離症は、心が強いストレスやつらい出来事から自分を守ろうとして起こることが多いと考えられています。
「解離」とは、本来つながっているはずの自分という感覚(アイデンティティ)・記憶・感情・思考・感覚が一時的に分かれてしまうことです。
たとえば、
といった体験があげられます。これらは誰にでも一時的に起こりうるものですが、解離性症ではその程度が強く、日常生活に支障をきたしてしまいます。
解離症には、症状の出方によって、いくつかのタイプがあります。それぞれに特徴がありますので、代表的なものを紹介します。実際には、これらが混ざり合って生じることがあります。
かつて「多重人格」と呼ばれた状態で、異なる人格が入れ替わるように現れることがあります。それぞれの人格には名前や性格があり、本人の中で交代して行動を取るため、周囲からは混乱して見えることもあります。
強いショックやトラウマがきっかけとなり、特定の出来事や期間の記憶が抜け落ちることがあります。「昨日のことを思い出せない」「大事な出来事だけが記憶から抜けている」といった症状が代表的です。
ある日突然、自分の家や学校、仕事を離れて遠くに行ってしまい、その間の記憶がないまま戻ってくることがあります。本人には移動していた記憶が抜け落ちているため、戸惑いや不安が大きくなります。
「自分の体を外から見ているように感じる」「世界が映画のようで現実感がない」といった感覚です。周囲には伝わりにくいため、「理解してもらえない」と孤独感を抱く方もいます。
解離症の背景には、過去のつらい体験があることが多いとされています。たとえば、子どもの頃の虐待、いじめ、災害、事故などがきっかけになることがあります。心が耐えきれない状況に直面すると、「その記憶や感情を切り離す」という方法で自分を守ろうとするのです。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)や転換性障害など、他の疾患と関連してみられることもあります。似た症状が重なって見えるため、慎重な診断が必要になります。
解離症の症状は人によって異なりますが、代表的なものを挙げます。これらが、同時に複数出現することがあります。
解離症は、神経の病気や体の病気と同じような症状を伴うことがあるため、最初に内科を受診され、さまざまな診察・検査で内科的な異常がないため、この病が疑われて精神科や心療内科に相談となるケースも多くあります。
体の病気と似たような症状を認めるため、内科受診をされたかどうかに関わらず、体の病気を丁寧に見分けることが大切です。そのうえで、精神科での診断の際には、ご本人の体験を丁寧に聞き取ります。また、心理検査を行って心の状態を把握することもあります。周囲の家族や友人からの情報も診断の参考になります。
治療の中心となるのは心理療法です。安心できる環境で、少しずつトラウマに向き合ったり、感情や記憶を整理していったりします。認知行動療法や支持的なカウンセリングなどが用いられる場合もあります。
薬そのものが「解離」を直接治すわけではありませんが、不安や不眠、気分の落ち込みが強い場合に薬が使われることがあります。生活の安定をサポートするための一助と考えられます。
解離性障害のある方にとって、家族や友人、学校や職場の理解はとても大切です。「怠けているわけではない」と理解して寄り添うことが、安心感につながります。
解離症は、心が強いストレスやトラウマから自分を守ろうとしたときに起こる反応の一つです。記憶が抜け落ちたり、自分が自分でないように感じたりと、さまざまな症状が生じます。
大切なのは、「なぜこうした体験をしてしまうのか」と一人で悩み続けるのではなく、安心して相談できる場所を見つけることです。
そして、患者さんだけでなく、家族や友人など周囲の人が理解を深めることも重要です。支え合う環境があれば、少しずつ回復の道を歩むことができます。
解離症状は、心が苦しい状況に置かれたときの「生き抜くための力」でもあります。その仕組みを理解し、支え合うことが、回復への大切な一歩となります。
症状に心当たりのあるときは、お気軽にご相談ください。
文責 院長 和佐野研二郎