診療内容

MEDICAL INFO

不眠症について

INSOMNIA

不眠症とは

不眠症の基本的な理解

私たちにとって睡眠は、からだとこころを休めるために欠かせない大切な時間です。眠っている間に脳や体はエネルギーを回復し、次の日の活動に備えます。ところが、適切なタイミング(ベッドに入る時間やベッドにいる時間)と適切な睡眠環境(騒音や室温、明るさなどの寝室環境)のもとでも、うまく睡眠がとれず、日中の生活に影響が出る場合を「不眠症」と呼びます。
不眠症は、誰にでも起こりうる病気で、さまざまな他の病気と一緒に生じることも多く、逆に、さまざまな病気のもととなることもあります。適切に対処して、いかに慢性化させないかが重要になります。

不眠症の種類

不眠症といっても、人によってあらわれ方が違います。大きく分けると次のようなタイプがあります。

  • 入眠困難:寝つきが悪く、眠りにつくまでに30分以上かかってしまうタイプ。
  • 中途覚醒:夜中に何度も目が覚めてしまい、ぐっすり眠れないタイプ。
  • 早朝覚醒:朝早く目が覚めてしまい、再び眠れないタイプ。
  • 熟眠障害:ある程度眠っても「ぐっすり眠った感じ」が得られず、疲れが取れないタイプ。
  • 睡眠状態誤認:はた目には(睡眠検査上も)眠れているが、眠った自覚がないタイプ 

これらの症状が混ざって出ることもあり、人それぞれ不眠の悩み方は違います。

不眠症の症状と影響

よくみられる症状

不眠症の人は、夜の眠りに関する悩みだけでなく、日中の生活にも困りごとが出てきます。夜は寝つきが悪い、夜中に目が覚めるなどの症状があり、日中は眠気が強くなったり、集中できなくなったりします。

日常生活への影響

眠りがうまくとれないと、学校で授業に集中できなかったり、仕事でミスが増えたりします。気持ちが落ち込みやすくなり、うつ病や不安症など心の病気のもととなることもあります。また、長期間の不眠は高血圧や糖尿病など体の病気のリスクを高めるとも言われています。つまり、不眠は「ただ眠れないだけ」ではなく、心身の健康に大きな影響を与えるのです。

不眠症の原因

心理的・環境的要因

ストレスや不安は不眠症の大きな原因のひとつです。受験、仕事、人間関係の悩みなどで心が緊張していると体も緊張し眠りにくくなります。何度か眠れないことが続くと、「また今晩も眠れないのではないか」との考え(不眠恐怖)が巡るようになり、なおさら眠れなくなります。また、夜更かしや昼夜逆転など生活リズムの乱れも不眠を引き起こします。寝室の温度や明るさ、周囲の音といった環境も眠りやすさに影響します。 ※環境的要因のみによる不眠は、「不眠症」ではなく「不眠状態」といわれます。

身体的な要因

体の病気やこころの病気、他の睡眠障害が原因で不眠になることもあります。例えば、関節痛や呼吸困難、頻尿、皮膚のかゆみなどを生じる体の病気、うつ病や不安障害、認知症などのこころの病、眠っている間に呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」、足がムズムズして眠れない「レストレスレッグス症候群」、夢を見ながら体が動いてしまう「レム睡眠行動障害」などの睡眠障害です。こうした病気が隠れている場合、不眠だけを治そうとしても改善しにくいことがあります。

薬や嗜好品の影響

コーヒーや紅茶に含まれるカフェイン、タバコのニコチンなどは眠りを妨げます。寝酒としてアルコールを飲むと、一時的に眠りやすくなることがありますが、実際には眠りが浅くなり、夜中に目が覚めやすくなります。さらに、一部の薬(血圧を下げる薬、ステロイド薬、甲状腺の薬など)には覚醒作用があり、不眠の原因となることもあります。

不眠症の診断方法

医師による問診と評価

診断の第一歩は、医師がどのように眠れていないかを丁寧に聞くことから始まります。睡眠の環境は適切かどうか、日中の活動量はどの程度か、寝つきにかかる時間、夜中に何度も目が覚めるか、朝の目覚めはどうか、日中の眠気や集中力の低下はあるかなど、生活全体を確認します。また、年齢によって生理的に睡眠の状態は変化するため、年齢にあった睡眠とは何かを考えながら問診します。

検査方法

睡眠日誌をつけてもらい、就寝や起床のリズムを記録することもあります。また、「終夜ポリソムノグラフィー」という検査では、脳波や呼吸、心拍などを測定し、眠りの質を詳しく調べます。これにより、不眠症のタイプや他の睡眠障害との違いを確認することができます。 ※当院では簡易型のポリソムノグラフィー検査のみ行っています。

不眠症の治療法

薬を使わない治療

不眠症の治療は「薬を使わない方法」から始めることが多いです。まずは、毎日同じ時間に寝て起きる、昼寝をしすぎない、寝室を静かで暗くするなど、生活リズムや睡眠環境を整えることが効果的です。これを「睡眠衛生」と呼び、不眠症の改善にとても大切です。また、他には「認知行動療法(CBT-I)」や「リラクゼーション法」などがあります。これらは「眠れないのではないか」という不安な考えや、眠ろうとして焦る気持ちを和らげ、自然な眠りを取り戻すための方法です。

薬物療法

必要に応じて医師の判断で睡眠薬を使います。睡眠薬は一時的に症状を和らげるためのもので、むやみに多剤併用や長期間の使用はさけるべきですが、必要以上に薬剤使用を恐れて不眠を我慢することも大きな弊害を生むことが多いため、自己判断で調整や中止をするのではなく、必ず医師の指導を受けることが大切です。
特に、薬剤に頼りたくない気持ちから飲酒で解決しようとする方もいらっしゃいますが、先に述べたようにアルコールの方が依存(やめられなくなる)、耐性(同じ量では効果がなくなる)、そして、体への害もケタ違いに強い事は知っておいて頂きたいです。 

不眠症を予防する生活習慣

睡眠環境の整え方

眠りやすい寝室を作ることはとても大切です。音や光をできるだけ減らし、静かで暗い環境を整えましょう。エアコンや加湿器を使って心地よい温度や湿度を保つのも良い方法です。また、寝る前にスマートフォンやパソコンを長時間見ると、脳が覚醒して眠りにくくなります。寝る前は画面から離れ、本を読んだり軽いストレッチをしたりなど、リラックスした過ごし方を心がけましょう。

健康的な生活リズム

毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きることが基本です。休日だからといって昼まで寝ていると、生活リズムが乱れて眠りにくくなります。また、日中に体を動かすことは夜の眠りやすさにつながります。軽い運動でも効果があります。

食事や嗜好品への注意

夕方以降のカフェイン摂取は控えたほうがよいでしょう。寝酒としてのアルコールは一時的に眠気を強めますが、睡眠の質を悪くするためおすすめできません。

不眠症に悩んだときにできること

自分でできる工夫

眠れないときは、まず生活習慣を振り返りましょう。寝る前の深呼吸や軽いストレッチはリラックスにつながります。カフェインを控える、規則正しい生活を心がけるといった小さな工夫でも改善することがあります。

専門医に相談するタイミング

不眠が2週間以上続いて日常生活に支障が出ている場合は、専門医に相談することをおすすめします。強い眠気や息苦しさ、足の違和感などを伴うときは、ほかの睡眠障害が隠れている可能性もあるため、早めの受診が安心につながります。

まとめ

不眠症は誰にでも起こりうる身近な症状です。しかし、放置してしまうと心の健康や体の健康に大きな影響を与えることがあります。原因は人によってさまざまで、ストレスや生活リズム、病気や薬の影響などが関わっています。
治療には、生活習慣を見直すことやリラクゼーション法、認知行動療法(CBT-I)が有効であり、必要に応じて薬を使うこともあります。大切なのは、自分に合った方法を見つけ、無理なく続けることです。
「眠れない日々が続いてつらい」と感じたら、ひとりで抱え込まずに医療機関へご相談ください。私たちは、あなたの眠りと健康を取り戻すお手伝いをいたします。 

参考資料

  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「不眠症」
  • 厚生労働省「睡眠指針 2014 ―健康づくりのための睡眠指針―」
  • 日本睡眠学会「睡眠障害の分類と診断・治療ガイドライン」
  • 国立精神・神経医療研究センター「睡眠障害」解説ページ
  • アメリカ睡眠医学会(AASM): Clinical Practice Guideline for the Pharmacologic Treatment of Chronic Insomnia in Adults (2017)
    https://aasm.org/clinical-resources/practice-standards/practice-guidelines/

文責 院長 和佐野研二郎