MEDICAL INFO
PSYCHOSOMATIC ILLNESS
「心身症(しんしんしょう)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、心のストレスや不安が体にあらわれる病気のことです。
たとえば、学校で緊張するとお腹が痛くなる、テスト前に頭が痛くなる、発表会の前に胸がドキドキして息苦しくなる。こうした経験は多くの人がしたことがあると思います。実は、これらも心身症の一つのあらわれ方です。
人間の「こころ」と「からだ」は、いつも別々に動いているわけではなく、お互いに強くつながっています。心の状態が体に影響し、逆に体の状態が心に影響するのです。心身症は、そのつながりが原因となって体の症状が続く状態をさしています。
心身症は他の精神疾患とは少し違います。うつ病や不安症といった精神疾患では、気分の落ち込みや強い不安が中心となります。一方、心身症では体の不調が主な症状です。
たとえば、頭痛、胃の痛み、胸のドキドキ、めまい、便秘や下痢などが続きます。ただし、その原因をさかのぼると、やはりストレスや心理的な負担が関わっているのです。ですから、心身症を理解するには「内科」と「精神科・心療内科」の両方の視点が必要になります。
心身症の症状は人によって異なります。代表的なものをあげると、次のようなものがあります。
症状が続くと、生活や勉強、仕事にも影響が出てきます。
「頭痛がひどくて授業に集中できない」「お腹が痛くて学校に行けない」「疲れて仕事に集中できない」といった声もよく聞かれます。
心身症は、検査で説明しにくい「体の症状」が中心なので、周囲からは「さぼっているのでは」と誤解されてしまうこともあります。そのため、本人にとってはとてもつらい状況になることが少なくありません。
心身症の大きな原因のひとつは「心理的なストレス」です。
こうしたことが重なると、心に負担がかかり、やがて体に不調があらわれることがあります。
学校や職場といった環境も大きく影響します。たとえば、クラス替えや転校、部活動での人間関係、職場での責任や過労などです。環境の変化は心にストレスを与えやすく、心身症を引き起こすきっかけになります。
ストレスが長く続くと、自律神経(体の働きを自動的に調整する神経)のバランスが乱れ、胃腸や心臓などに影響が出ます。また、ホルモンの働きにも変化が生じて、体調を崩しやすくなることがあります。もともと体が弱い人や持病のある人では、症状が強く出る場合もあります。
心身症かどうかを調べるには、まず内科で検査を受けることが大切です。血液検査やレントゲンなどを行い、体に異常がないかを調べます。
しかし、検査で特に異常が見つからないのに症状が続く場合には、心療内科や精神科で「心と体の関係」をふまえて診察してもらうことが必要になります。
このような場合には、早めに心療内科や精神科で相談すると安心です。
心身症の治療では、薬を使わずにできる方法も多くあります。代表的なのは心理療法です。カウンセリングや認知行動療法などを通して、自分のストレスの原因や考え方のクセに気づき、少しずつ楽に生活できるようにします。
また、深呼吸やリラクゼーション、適度な運動なども効果的です。生活習慣を整えることが、体と心の安定につながります。
必要な場合には、薬を使うこともあります。抗不安薬や抗うつ薬などが処方されることがありますが、それだけに頼るのではなく、心理療法や生活習慣の改善と組み合わせることが大切です。
心身症を防ぐために、毎日の生活でできることがあります。
ストレスをゼロにすることはできませんが、上手につきあうことはできます。
心身症は見た目では分かりにくい病気です。そのため、本人も「気のせいなのでは」と悩んだり、周囲から「怠けている」と誤解されたりすることもあります。
家族や友人が理解し、「無理しなくていいよ」と声をかけてあげることが大きな支えになります。また、学校や職場でも理解が広がることが、患者さんの安心につながります。
心身症は、心と体がつながっていることをよく表す病気です。ストレスや不安が原因となり、体の不調としてあらわれます。
検査では異常がなくても、つらい症状が続くことがあります。そのときは「気のせい」と思わず、心療内科や精神科に相談することが大切です。
心身症は、早めに気づき、適切に対応すれば、日常生活を取り戻すことができます。自分だけで抱え込まず、病院や周囲の人に相談しながら、一歩ずつ回復を目指しましょう。
文責 院長 和佐野研二郎