診療内容

MEDICAL INFO

統合失調症について

SCHIZOPHRENIA

統合失調症とは

病気の基本的な理解

統合失調症は、こころの病気のひとつです。脳のはたらきにバランスのくずれが起こり、周りの情報に対して、過敏すぎるところと鈍くなるところが同時に現れる病気です。たとえば、実際には存在しない声が聞こえたり(幻覚)、根拠のない思い込みを強く信じてしまうこと(妄想)、やる気がなくなってひきこもってしまうことなどがあります。
100人に約1人が発症する可能性があり、決して珍しい病気ではありません。誰にでも起こりうる身近な病気のひとつなのです。世界ではたくさんの人がこの病気と向き合っており、日本でも数十万人が治療を受けています。
以前は、治療が難しかった病ですが、最近は、医学の進歩により画期的な治療法も増え、早期に適した治療と支援をうければ、日常生活を続けることができる病気となってきています。 

脳のはたらきのバランス

私たちは日常生活の中で、考えたり感じたりすることに「脳のはたらき」を使っています。たとえば、勉強に集中したり、友達と楽しく会話したり、将来のことを考えたりするのも「脳のはたらき」です。
統合失調症になると、この「脳のはたらき」のバランスが乱れてしまい、

  • 聞こえないはずの声が聞こえる
  • 事実とは違うことを強く信じてしまう 

といった体験をすることがあります。

これは本人にとってはとても現実的で、周囲が「そんなことないよ」と言っても簡単には変わりません。
また、これらは勉強や仕事、日常生活に大きな影響を与えるため、本人だけでなく家族も悩むことが少なくありません。 

統合失調症の症状

陽性症状(幻覚や妄想など)

「陽性症状」とは、普段はないはずの体験が出てくる症状のことです。

  • 幻覚:一番多いのは「幻聴」で、実際にはない声が聞こえるように感じます。たとえば「自分を悪く言う声が聞こえる」といった体験です。
  • 妄想:現実とは違うことを強く信じてしまう状態です。代表的なのは「誰かに嫌がらせをされている」と思い込む被害妄想です。

これらは周りから見ると「道理が通らずありえない」「そんなはずないじゃないか」「なんでそんな事も分からないの」と感じるかもしれませんが、本人にとっては真実であり、とてもつらい体験です。

陰性症状(意欲や思考の低下など)

「陰性症状」とは、逆に普段あるはずの力が弱まってしまう症状です。

  • 会話が少なくなる
  • ぼーっとしている
  • 感情の表現が減る
  • 興味や関心がなくなる
  • ひきこもる 

このような症状は「怠けている」と誤解されがちですが、病気による変化です。また、治療中の場合は薬での鎮静と区別がつきにくいことがあります。

認知機能の障害

統合失調症では「考える力」にも影響が出ることがあります。

  • 記憶力が落ちる
  • 集中力が続かない
  • 判断がむずかしくなる
  • 考えがまとまらず、脱線しがちとなる 

勉強や仕事、友達関係にも影響が出やすく、本人にとっても周囲にとっても困難が増える症状です。

統合失調症の原因と診断

発症に関わる要因

「なぜ統合失調症になるのか」は、まだ完全には解明されていません。ただし、次のような要因が関係していると考えられています。

  • 遺伝や体質
  • 脳の働きの変化
  • 強いストレスや環境の影響 

つまり「もともとの体質」に「生活環境のストレス」が重なって発症すると言われています。

診断の流れ

精神科では、医師が患者さんやご家族から話を聞き、症状の経過を確認します。他のこころの病気やからだの病気でも似たような症状がでることもあるため、それらを否定するために、必要に応じて心理検査や血液検査などを行います。診断にはDSMやICDなど国際的な基準が用いられ、医師が総合的に判断します。
自己判断では正しく診断できないため、気になる症状があるときは早めに専門医に相談することが大切です。

治療と支援

薬物療法

基本は「抗精神病薬」という薬を使った治療です。幻覚や妄想を抑え、意欲や認知機能を回復させ、再発を防ぐ効果があります。

  • クロザピン:他の薬で、効果が十分でない場合や副作用が強く出る場合に使われる特別な薬。定期的に血液検査を行う必要があります。
  • 持効性注射剤:飲み薬の代わりに、定期的(1回/1~3ヶ月)に注射する薬。毎日の内服の負担が軽くなる上、薬の効果が安定して発揮され、副作用が軽くなることや再入院の可能性が減ることが報告されています。

再発を防ぐ効果があり、長期的に使われることが多い薬です。

精神療法とリハビリ

薬だけでなく、生活を支えるためのリハビリや支援も重要です。

  • 精神科デイケア:安心できる場所で日中を過ごし、生活リズムを整え、人との関わり方や認知機能、体力面のリハビリをして社会参加をサポートします。
  • 精神科訪問看護:看護師が自宅を訪れ、体調を確認し、服薬の確認や生活の相談を一緒に考えてくれます
その他の治療法

薬だけで改善が難しい場合や緊急性の高い場合には「修正型電気けいれん療法(mECT)」という選択肢もあります。これは全身麻酔を使って行う、安全に配慮された治療法のため、妊婦さんなども利用されることがあります。
※「修正型電気けいれん療法(mECT)」は、当院では行っていないため、連携している他の病院に相談・紹介となります

心理教育など

また、ご本人やご家族への支援や病気についての教育も大切です。病気の正しい理解があると、ご本人もご家族もより安心して病気に向き合うことが出来ます。ご家族が本人に過干渉な場合は、治療にマイナスの働きとなる可能性があるともいわれています。
病院だけでなく、地域の保健・福祉サービスと協力しながら支援していきます。

経過と回復

発症から回復までの流れ

統合失調症の経過は、「急性期」「回復期」「維持期」の3つの段階に分けて考えらることが多いです。

  • 急性期:症状が強く出るつらい時期
  • 回復期:治療によって症状が落ち着き始める休息の時期
  • 維持期:安定した生活を続け、再発を予防を考える時期 

適切な治療と支援を続ければ、安定した生活を送れる方は多くいらっしゃいます。なるべく早い時期に治療を受けることが大切です。

再発予防と健康管理

再発を防ぐためには、次のことが大切です。

  • 薬をきちんと続ける
  • 規則正しい生活を送る
  • ストレスをためすぎない
  • 家族や病院と協力する 

「病気と上手につきあっていく」ことが、安定した生活につながります。

統合失調症と共に生きる

患者さんと家族の視点

統合失調症はずっと付き合っていかなければならない病ではありますが、サポートをうけつつ工夫を重ねることで、支障なく暮らすことができます。

地域でのサポート

統合失調症は「支援があれば、支障なく暮らしていける病」です。精神科デイケアや訪問看護、相談支援事業所、就労支援など、社会にはたくさんの支援の場があります。
日本では、病院や地域の専門機関とつながることで、患者さんやご家族が孤立せずに安心して生活できる環境が整っていきます。 

まとめ

統合失調症は長い付き合いが必要な病気ですが、治療や支援を受けながら安定して生活を送っている方は数多くいます。大切なのは「ひとりで抱え込まないこと」です。
患者さん、ご家族、医療機関、地域が力を合わせることで、よりよい生活を送ることが可能です。当院では、外来から入院、また、訪問看護や精神科デイケア、復職支援、宿泊型自立訓練施設などの退院後の支援まで、まんべんなくサポートできる体制を整えております。ご心配なことがあれば、気軽にご相談ください。 

参考資料

  1. 厚生労働省 みんなのメンタルヘルス総合サイト「統合失調症
  2. 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究
  3. 日本精神神経学会「統合失調症に関する一般向けQ&A」
  4. 世界保健機関(WHO)「Schizophrenia」 
    https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/schizophrenia

文責 院長 和佐野研二郎